第69話 雪夜のバス

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

雪の夜だけ、山村を走るバスがあります。運転手のユキオさんは、バス停で待つ人がいなくても、村の外れまでゆっくり走ります。雪夜のバスは、行く場所のある人ではなく、「どこかへ行きたい人」のために走るのです。

その晩、乗り込んできたのは、雪の精のような白いおばあさんでした。 「どこまで行くの」 「終点まで。私は毎年、冬の終わりに、この村の雪の様子を見に行くんです」 車内は温かく、二人は他愛のない話をしました。村の冬のこと、雪解けのこと。終点で、おばあさんは微笑んで降りました。 「春はもうすぐですよ」 「どうして分かるんですか」 「私は春を連れてくる係ですから」

その週末、村に春一番が吹きました。ユキオさんは思いました。雪夜のバスは、季節の変わり目を運んでいるのかもしれない、と。