ある町に、不思議な本がありました。表紙には題名がなく、ページを開くと、優しい不思議な物語が一つ、書かれています。そして、その本を読んだ人が誰かに小さな親切をすると、本に新しい物語が一つ、増えるのだそうです。
本は人から人へ渡されました。図書館に置かれ、病室で読まれ、旅人の鞄に入りました。そのたびに、物語は増えていきました。九十九の物語が集まった頃、本はある人の手元に届きました。
その人は、百の物語がそろうのを見届けて、そっと本を閉じました。そして言いました。 「百番目の物語は、本の中には書かれないのかもしれない。この本を読んだ人が、これから生きていく日々こそが、百番目の物語なんだ」
本は今も、どこかで誰かの手にあります。そして今日も、誰かの小さな親切が、新しい物語の種になっています。
もしあなたがこの本を手に取ったなら。その親切の番は、あなたのところへ来ているのかもしれません。
あとがき
この本には、やさしくて不思議な短い物語を、百話集めました。 雨の日の郵便屋さん、星を直す職人、夢を縫う仕立て屋、雲をつかむ漁師――。 どの物語も、「誰かを思う気持ち」が小さな魔法を起こすお話です。
読んでくださって、ありがとうございました。 あなたの毎日にも、小さな不思議が訪れますように。
(おわり)