村の語り部、バアさんは九十歳。子どもの頃から毎晩、囲炉裏端で物語を語ってきました。村の子どもたちは、バアさんの話で育ちました。星の話、川の話、優しい魔法の話。
バアさんの耳が遠くなった冬、村の若者たちが集まりました。今夜は逆に、若者たちがバアさんに物語を語る番です。一人ずつ、自分が一番好きだったバアさんの話を、覚えている通りに語りました。話は少しずつ違っていました。でも、バアさんは目を潤ませて聞きました。 「物語はね、語られるたびに、語る人の色がつく。それでいいんだよ。あんたたちの話は、あんたたちの人生の色がついている」
その夜の最後、バアさんは言いました。 「私の物語は、もう私のものじゃない。村のものだ。誰かが語り続ける限り、物語は生き続ける」
囲炉裏の火は、静かに燃え続けました。