第2話 雨粒の郵便屋さん

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

雨の降る日だけ仕事をする、少し変わった郵便屋さんがいました。彼の名前はソラ。背負った革の鞄には手紙ではなく、小さなガラスの瓶が何十本も入っています。

ソラの仕事は、雨粒を集めることです。屋根の端、葉っぱの先、窓ガラス。落ちる前の雨粒を瓶に受けると、不思議なことに、その雨粒が落ちてきた場所の「音」が閉じ込められます。遠い海の上を渡ってきた雨は波の音を、山の上で生まれた雨は風の音を、小さな庭に降った雨は、土と花の匂いのする静けさを、その一滴の中に持っているのです。

晴れた日、ソラはその瓶を持って町を歩きます。届け先は、住所のない相手ばかり。眠れない夜を過ごした人、遠くへ行った友だちを思う人、枯れかけた植木鉢を前にため息をつく人。そういう人の家の前に、瓶を一本、そっと置いていくのです。

ある夏の夕方、ソラは山のふもとの小さな家を訪ねました。そこには、目を悪くしてから遠くへ行けなくなったおばあさんが、一人で暮らしていました。

「郵便です。雨粒をひとつ、お届けにきました」

おばあさんは瓶を受け取り、耳のそばで軽く振りました。すると中から、懐かしい音が聞こえてきました。石を打つ水の音、蛙の声、遠くで呼ぶ子どもの声。それは、おばあさんが子どもの頃に住んでいた村の、井戸端の音でした。

「ああ……あの村の雨だねえ」

おばあさんは目を閉じて、長いこと聞いていました。瓶の中の雨粒は、七十年もの旅をして、ようやく届いた手紙のようでした。

「ありがとう。今日はよく眠れそうだよ」

ソラは帽子を取って、深くおじぎをしました。空は晴れていましたが、彼の鞄の中では、次に届ける雨粒たちが、小さく、やさしく、光っていました。