森の奥、もう使われていないはずの線路の先に、小さな駅があります。駅の名前は「なくしもの駅」。電車は来ませんが、駅舎の中には棚が並んでいて、世界中から届いた「なくしもの」が、持ち主を待って静かに並んでいます。
片方だけの手袋、鍵のかからない鍵、誰かの名前が消えかけたハンカチ。そして、声。
駅員さんは、耳の大きな年老いた猫です。名前はタマスケ。タマスケは届いたなくしものを一つ一つ磨いて、日付と場所の札をつけて棚に置きます。
ある霧の朝、少女サヨがこの駅に迷い込んできました。サヨは転校してから、学校でうまく声が出せなくなっていました。言いたいことは山ほどあるのに、口を開くと、言葉がどこかへ逃げてしまうのです。
「いらっしゃい。何をなくしました」 タマスケが尋ねました。 「……声、です」 サヨは小さな、小さな声で言いました。
タマスケは棚の奥から、小さな木の箱を持ってきました。開けると、中には柔らかな光が丸まって入っていました。
「これはね、君が五つの頃に、雨の日に置いてきた声だよ。大声で歌うのが大好きだった頃の声さ」
サヨがそっと箱に触れると、光はふわりとほどけて、懐かしい歌になりました。雨の音、長靴の水たまり、そして若いお母さんの笑い声。
「なくしたものはね、なくした場所に置いてけぼりなのではないんだよ。こうして、拾ってくれる誰かを待っているんだ」
サヨは箱を大事に抱えて駅を出ました。学校に着いて、友だちに「おはよう」と言おうとしたとき、声はまだ少し震えていましたが、確かに、届きました。
なくしもの駅の棚では今日も、誰かの大切なものが、静かに持ち主を待っています。