満月の夜にだけ開くパン屋があります。場所は、眠った町の、ちょうど月明かりの溜まる坂の途中。店主のルーナさんは月光を小麦粉に練り込んで、ほんのり光るパンを焼きます。
その中でも特別なのが「夢パン」。食べると、その晩の夢の中で、会いたい人に会えるのです。
転校で親友と離れたばかりの女の子、ナナがこの店を見つけたのは、眠れない満月の夜でした。
「夢パンを一つください」 「誰に会いたいの」 「……親友の、ミサキに」
ナナはパンを食べて眠りました。夢の中で、二人は学校の屋上にいました。雲の上に浮かぶ屋上です。
「ミサキ!」 「ナナ! 来てくれたんだ」 二人は積もる話をして、笑って、少し泣きました。目が覚める前、ミサキが言いました。 「夢で会えるのは嬉しいけど、手紙も書くね。現実の私にも、会いに来て」 「うん。書く。絶対書く」
朝、ナナは久しぶりにすっきりと目覚めて、すぐに手紙を書き始めました。月夜のパン屋さんは、次の満月まで静かに眠っています。