海の上、朝もやの中を小さな船で進む漁師がいます。名前はソラジ。彼が獲るのは魚ではありません。雲です。
長い網でふわりと雲をすくい上げると、雲は綿のように柔らかくなります。ソラジはその雲で枕を作って、港町で売っているのです。雲の枕で眠ると、空を飛ぶ夢が見られるのだそうです。
ある日、眠れない日が続いているという女の子、ヒカリが店に来ました。
「あの、雲の枕、一つください。私、夜がこわくて」 「おう。じゃあ今朝獲れたての一番柔らかい雲を詰めてやろう」
その晩、ヒカリは久しぶりにぐっすり眠れました。夢の中で、ヒカリは自分の町の上を飛んでいました。屋根の上の猫、川の光、遠くの山。夜はこわいものではなく、静かで、大きくて、優しいものでした。
翌日、ヒカリは言いました。 「雲、ありがとうございました」 ソラジは笑いました。 「雲ってのはな、誰かのいい夢のために使われるのが、一番嬉しいんだと」