夜の十二時を過ぎると、夢と夢の間を走る列車があります。車掌のユメジさんは乗客の切符を拝見します。この列車の切符は、「誰かにどうしても伝えたいこと」です。
ある晩、中年の男性が乗ってきました。切符には、小さく震えた字で「兄に謝りたい」と書いてありました。兄弟は十年前に喧嘩をして、それっきり口をきいていないのだそうです。
「兄の夢まで、行けますか」 「夢の列車はね、思いの強い方へレールが伸びるんです」
列車は夜の闇を走り、やがて小さな駅に停まりました。ホームのベンチに、兄が座っていました。夢の中の兄は、弟を見て、驚いて、それから少し笑いました。
「……元気だったか」 「兄さん、あの時は、ごめん」 二人はベンチに並んで座って、朝が来るまで他愛のない話をしました。
翌朝、男性は目覚めて、すぐに電話をかけました。十年ぶりの兄の声でした。 「おう、どうした」 「いや……。近々、会いに行ってもいいか」
夢の列車は、今夜も誰かの思いを運んで走ります。