夏の夕方、突然の夕立に遭ったときだけ現れる喫茶店があります。名は「夕立喫茶店」。普段は空き地のはずの場所に、雨音と一緒に、ふっと看板が灯るのです。
店内では、雨宿りの客同士が相席になります。マスターの言葉です。「雨が降らなきゃ出会えなかった人たちですから」。
ある夕立の日、就職面接に落ちて肩を落とす青年が、老婦人と相席になりました。老婦人は青年の濡れたスーツを見て言いました。 「若い人の雨宿りは、いいものですよ。雨が止む頃には、気持ちも少し乾いていますから」 青年は温かいココアを飲んで、面接のことをぽつぽつ話しました。老婦人は最後まで聞いてくれました。
雨が上がって店を出ると、空には虹。青年は深呼吸をしました。不思議と、明日の面接を受けてみようという気持ちが湧いていました。
翌日、同じ場所に喫茶店はありませんでした。ただ、空き地の隅に、小さな看板の跡と、虹の欠片のような光が落ちていました。