ルリの家には、字のない絵本があります。ページには絵だけ。森と、川と、小さな家と、女の子。お母さんは毎晩、その絵本を「読んで」くれました。でも、物語は毎晩少しずつ違いました。お母さんが絵から思いつくままに話を作るからです。
「今夜の女の子はね、川で光る魚に会うの」 「昨日は森で迷子だったのに」 「絵本の中の子は、毎日新しい冒険をするのよ」
ルリが大人になって、お母さんが病気で寝込むようになりました。今度はルリが絵本を開きました。 「今夜の女の子はね、お母さんに会いに、星の坂を登るの」 お母さんは目を細めて聞きました。 「いいお話だねえ。あんたが小さい頃、あたしが作った話より上手だよ」 「お母さんの話を、千回聞いて育ったからね」
字のない絵本は、読む人の数だけ物語があるのです。今夜もどこかで、誰かの声で、新しい一ページが開かれています。