第33話 手品師の種

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

旅の手品師が村に来て、子どもたちに種を配りました。「植えるとね、その人に今一番必要なものが育つよ」。

欲張りな男は「金の木」を願い、真面目な農夫は「豊作の苗」を願いました。ところが金の木は育たず、農夫の畑には普通の大根が育ちました。

小さな女の子のミミが植えた種からは、背の低い木が育ち、実の代わりに小さなベンチが実りました。不思議に思って座ってみると、ミミは気づきました。いつも忙しいお母さんが、このベンチで少し休めることに。ミミはお母さんを誘いました。 「おかあさん、ここでお茶しよう」 二人は並んで座って、お茶を飲んで、他愛ない話をしました。

手品師は村を去る前に言いました。 「種は願いを叶えるんじゃない。その人に足りないものを、そっと教えてくれるだけさ」

大根を収穫した農夫も言いました。「うちはな、豊作より、家族で食べる時間が足りなかったんだ」と。