第38話 渚のピアノ

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

嵐の後の朝、渚にグランドピアノが打ち上げられていました。村の人々が見守る中、不思議なことが起きました。潮が引き始めると、ピアノが独りでに鳴り始めたのです。誰もいないのに、鍵盤が動き、穏やかな曲が流れます。

ピアノ教師のソラ先生は言いました。 「これは、遠い国の船に乗っていたピアノだわ。潮の満ち引きで、船乗りたちの好きだった曲を思い出して弾いているのよ」

村の子どもたちは、夕方の引き潮に合わせて渚に集まるようになりました。ある日、年老いた元船乗りのおじいさんが、ピアノの前で立ち尽くしました。 「この曲は……妻が弾いてくれた曲だ」 おじいさんはピアノの隣に座り、震える手で鍵盤に触れました。ピアノの調べと、おじいさんの拙い演奏が重なって、海に夕日が沈むまで続きました。

ピアノは今も渚にあります。潮が引く夕方、村の誰かの思い出の曲を弾いているそうです。