第42話 糸電話

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

引っ越しの荷造り中、少女ハナは押し入れの奥から、古い糸電話を見つけました。紙コップに長い糸。この家に昔住んでいた子どものものでしょう。

何気なく糸を張って、コップを耳に当てると、向こうから声がしました。 「もしもし。だあれ」 「わ、私はハナ。あなたは」 「私はユキ。この家の二階に住んでるの」 驚いたことに、ユキは三十年前にこの家に住んでいた少女でした。糸電話は、時間を越えて繋がっていたのです。

二人は何日も話しました。好きな給食、飼いたい犬の話。やがてユキは言いました。 「私ね、大人になったら先生になりたいんだ」 ハナはドキッとしました。ハナのお母さんは先生で、名前はユキ。子どもの頃、この家に住んでいたのです。

「ユキちゃん、その夢、叶うよ。絶対に」 「ほんとう」 「ほんとう。私が保証する」

引っ越しの日、ハナは糸電話を丁寧に包んで持って行きました。そして、お母さんには内緒で、そっと笑ったのでした。