第65話 霧笛と子鯨

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

霧の多い港には、大きな霧笛があります。霧笛守のオトヤさんは、霧の夜に笛を鳴らし、船に港の位置を知らせます。

ある霧の晩、霧笛の音に答えるように、海から子鯨の鳴き声が聞こえました。群れとはぐれた子鯨が、霧笛の音を仲間の声だと思って近づいてきたのです。オトヤさんは笛のリズムを変えました。ゆっくりと、優しく、導くように。子鯨は霧笛の音についていくように泳ぎ、沖の深い海へ出ていきました。やがて遠くから、大人の鯨の声が応えました。

翌朝、海は晴れていました。オトヤさんは言いました。 「霧笛はね、船のためだけじゃない。迷った者みんなの、道しるべなんだ」

今でも霧の夜、港の人々は聞きます。霧笛の音と、それに答える小さな鯨の声を。