本の修理屋さん、トジさんは、古本の背表紙や破れたページを直す職人です。でも彼の本当の仕事は、本に染みついた「読者の思い出」まで一緒に直すこと。破れたページには、誰かの涙や、笑い声の記憶が残っているからです。
老婦人が、夫の形見の詩集を持ってきました。ページは外れかけ、ところどころ滲んでいました。 「主人が好きだった詩集なんです。もう一度、読めるように」 トジさんは丁寧に言いました。 「この滲みは、大切に読まれた証拠ですね。消さずに、残す形で直しましょう」
数週間後、修理された詩集が戻ってきました。綴じは新しく、でも滲みの跡は残されています。老婦人はページをめくり、微笑みました。 「主人の手の跡が、残っているみたいです」
本は直りました。思い出と一緒に、これからも読まれていくために。