第67話 真夜中のタクシー

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

深夜の駅前に、一台のタクシーが止まっています。運転手のゴロウさんは、少し変わった運転手で、客にこう尋ねます。「どちらまで、ではなくて。どちらへ、行くべきですか」。

終電を逃した若い女性は、疲れた顔で言いました。 「家まで……。でも、本当は、実家に帰りたい。もう何年も、意地で帰っていないんです」 ゴロウさんは頷いて、車を出しました。着いたのは、彼女の実家の前の通りでした。明かりのついた窓。女性は長い間窓を見つめて、それから、自分で玄関のベルを押しました。

「ありがとうございました。どうして分かったんですか」 「行き先はね、たいてい顔に書いてあるんですよ。家と、帰る場所は、違うこともありますから」

真夜中のタクシーは、今夜も誰かを、本当の行き先へ運んでいます。