川に架かる橋の下では、夕方になると小さな楽団が演奏を始めます。カエルの合唱、コオロギのバイオリン、水面を打つ雨どいのドラム。橋の下の楽団の音楽は、足を止めて聞く人にしか聞こえません。急いで渡る人の耳には、ただの川の音です。
仕事帰りの疲れた会社員が、ある夕方、橋の上でふと足を止めました。欄干にもたれて川を見ていると、下から音楽が聞こえてきました。不思議と、肩の力が抜けていきました。 「音楽って、止まった人にだけ届くんだな」
それ以来、彼は週に一度、橋の上で足を止めるようになりました。家に帰るのが少し遅くなっても、表情は前より穏やかでした。
橋の下の楽団は、今夕も演奏しています。足を止める、誰かのために。