海女のウミさんは、七十歳の今も海に潜ります。ある日、深い岩場で、大きな真珠貝を見つけました。その中の真珠は、耳に当てると音がするのです。百年前の海の音。クジラの歌と、昔の船の歌声が、遠く聞こえました。
「この真珠は、海の記憶を閉じ込めているんだね」
ウミさんは真珠を持ち帰らず、海に戻しました。海の記憶は、海のものであるべきだと思ったのです。その代わり、ウミさんは若い海女たちに教えました。「海はね、全部覚えているんだよ。だから、敬意を持って潜るんだよ」
孫娘のナギサは海女になりました。潜るたびに、海の静けさに耳を澄まします。百年前の音は聞こえなくても、海が覚えているという安心感が、彼女の潜りを支えています。