第83話 雨の日の映画館

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

古い映画館「雨月館」は、雨の日だけ特別な上映をします。最後列の席に座った人にだけ、その人の一番幸せな記憶が、スクリーンに映るのです。

定年退職した男性が、雨の日に訪れました。最後列に座ると、スクリーンには若い頃の自分が映りました。妻と出会った夏祭り、子どもが生まれた日、家族旅行の海。男性は涙ぐみながら見入りました。 「いい人生だったなあ」 隣の席を見ると、同じように微笑む老婦人がいました。似た者同士、二人は上映後にロビーで話し込みました。

映画館の主人は言います。 「雨の日はね、人は思い出に浸るんです。うちの映画は、その手伝いをするだけですよ」

雨月館の明かりは、今も雨の日に灯ります。