第92話 坂の上の自転車屋さん

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

急な坂の上にある自転車屋さん。店主のサカイさんは、自転車と一緒に「乗り手の坂の多い日々」も直してくれる気がする、と評判です。

パンク修理に来た青年は、就職活動がうまくいかず、落ち込んでいました。 「人生、坂ばっかりです」 サカイさんは自転車を直しながら言いました。 「自転車はね、坂がつらいのは最初だけだ。漕ぎ方のコツは、てっぺんを見ないこと。目の前の一漕ぎだけを見るんだ」 修理が終わり、青年は坂を登り始めました。一漕ぎ、一漕ぎ。気づけば、てっぺんに着いていました。振り返ると、町が小さく見えました。

数週間後、青年は採用の知らせを持って店に来ました。 「一漕ぎずつ、やってみました」 サカイさんは笑いました。「それが一番速い登り方さ」。