第94話 麦わら帽子の夏

やさしい不思議の本 著者:しおりさと

この麦わら帽子は、三代前のひいおばあちゃんのものです。代々、夏になると家の誰かが被ってきました。帽子には不思議なところがありました。被ると、その夏の思い出が、先代たちの夏の記憶と重なって見えるのです。

少女ナツミが、今年初めてこの帽子を被って海へ行きました。波の音に混じって、若いひいおばあちゃんの笑い声が聞こえた気がしました。母の子どもの頃の声も。 「この帽子、夏の匂いがする」 母親は笑いました。「何十年分もの海と、畑と、祭りの匂いだね」

夏の終わり、ナツミは帽子を丁寧に箱に戻しました。来年の夏は、妹が被る番です。

帽子は、家族の夏を覚えています。そして、新しい夏を、また覚えるのです。