封筒は薄く日に焼けて、切手の代わりに、小さな星のシールが貼られていた。 書いたのは、十七歳の少女だった。引っ越していく同級生の男の子に渡すつもりで、三日かけて書いた。でも、駅のホームで、封筒を握ったまま「元気でね」としか言えなかった。手紙は少女の机の中で五十年を過ごし、少女が七十二歳になった秋、ふと思い出されて引き出しから出てきた。そして、その夜のうちに坂の上の局へやって来たのだ。 「五十年、待った手紙か」星野局長は封筒を光に透かした。「手紙に遅すぎるということは、ないんですよ」 五十年。少女は大人になり、別の人と結婚し、子どもを育て、夫を見送った。人生の節目節目で、あの手紙のことを思い出した。若い日の気持ちは色褪せたけれど、「渡せなかった」という事実だけが、小さな棘のように残っていた。秋の夜、彼女は棘を抜く決心をした。手紙を封筒に入れ直し、机の上に置いて眠った。それが、局へ流れ着く合図だった。 「この手紙が届けば、彼女の五十年も、静かに卒業できます」星野局長は言った。 宛先の男性は、偶然にも同じ町に戻ってきていた。妻に先立たれ、今は一人で暮らしている。 透が手紙を届けた翌日の夕方、男性は海辺の公園にいた。若い頃、二人でよく歩いた場所だった。ベンチに座って、彼は五十年目の手紙をゆっくり読んだ。 男性は手紙を二度読んだ。十七歳の彼女の字と、現在の彼女の――封筒の隅に小さく書かれた――近況の字を見比べて、彼は静かに微笑んだ。五十年という歳月は、二人を別々の人生に運んだが、この手紙だけは、まっすぐに時を渡ってきた。 彼は帰り道、自販機で温かいお茶を買った。そして、仏壇の妻に話すのとは別に、心の中で若い日の彼女にも礼を言った。「ありがとう。君の人生も、良いものであったようだね」 帰る頃、彼の足取りは行きより軽かった。家に帰ると、彼は仏壇の妻の写真に言った。「今日はね、不思議なことがあったんだ」 それで十分だった。手紙は、届くべき時に届いたのだ。