第7話 弟への謝り状

夜の郵便局 著者:ミオ

姉の手紙は、短かった。 「ごめん。あの時、私が意地を張らなければ、あなたは家を出ていかなかったと思う。お父さんのこと、私一人で抱え込もうとして、あなたに冷たくしました。元気でいますか」  姉と弟は、父の介護の方針で言い争い、それ以来三年、連絡を取り合っていない。弟は隣の県で働いている。姉は手紙を書いては破り、書いては破り、ようやく書き上げたこの一通も、怖くて出せなかった。 「謝る手紙は、届ける側も緊張します」帰り道、透は星野局長に言った。 「そうですね。でも、謝りは届いた時点で半分、許しの方は相手の時間に任せるしかない」  子どもの頃の二人は、仲の良い姉弟だった。姉は弟の手を引いて通学し、弟は姉の後ろを付いて歩いた。父が倒れてから、姉は「長女だから」と全てを背負い、弟は「もっと頼ってほしい」と思っていた。すれ違いは、どちらも家族を思う気持ちから生まれていた。介護の方針を巡る言い争いの夜、弟は「姉ちゃんは、一人で決めすぎだ」と言い、姉は「あんたは口だけだ」と返した。どちらの言葉も、本心ではなかった。  弟は手紙を読んで、長いこと窓の外を見ていたという。その週末、彼は三年ぶりに実家の番号に電話をかけた。最初の一言は、ぎこちなかった。 「……姉ちゃん、オレだよ」  電話の向こうで、姉は泣きながら笑ったそうだ。  電話は一時間近く続いたという。最初は父の思い出、次に互いの近況。姉は「一人で抱えて、悪かった」と言い、弟は「もっと早く電話すればよかった」と言った。どちらも、手紙に書けなかった言葉だった。言葉は手紙で届き、心は声で届いたのだ。  電話を切った弟は、スマートフォンの連絡先に、姉の名前を登録し直した。三年間、押すことのできなかった番号が、また日常の番号に戻ったのだ。  その後のことは、局の知るところではない。ただ、その年の冬、実家の玄関に弟の靴が戻ってきたと、風の便りに聞いた。墨がその話を聞いて、眠そうに目を細めていた。