宛名は「ねこさんへ」だった。差出人は、小学二年生の女の子。 「まいにちあそんでくれてありがとう。わたしはいえをひっこすことになりました。ねこさんも、さむくないところでねてください。さようなら」 女の子は、近所の空き地で懐いていた野良猫に、手紙を書いた。引っ越しの朝、空き地に置いてきたけれど、風で飛ばされて、夜の局に舞い込んだのだ。 「猫宛の手紙は、猫が届けるのが筋でしょう」星野局長が言うと、墨は面倒そうに、しかしどこか誇らしげに立ち上がった。 墨は町中を探し回った。三日目の夜、川辺の段ボールハウスで、あの野良猫が眠っているのを見つけた。墨は手紙をそっと置き、しばらく隣に座っていた。 野良猫は、その後すぐ、川辺の家の老夫婦に引き取られた。段ボールハウスに残された手紙は、老夫婦が見つけて、額に入れて飾ったそうだ。 引っ越しの朝、女の子は最後にもう一度、空き地を覗いた。猫はいなかった。段ボールの家は空っぽで、彼女はそこに、ミルクの小皿を置いて手を合わせた。「どうか、寒くありませんように」 手紙と一緒に置かれたその祈りは、風に乗って、まず局へ、それから猫へと届いたのだった。 川辺の老夫婦は、段ボールハウスで震える猫を見つけた日、添えられた子どもの字の手紙も見つけていた。「この子は、大事にされていたんだね」と二人は言い、猫を家に迎える決心をしたのだという。 引っ越した女の子のもとへは、ある日、老夫婦から写真が届いた。元気な猫の写真と、「うちの子になりました」という文添えで。 女の子は写真を、自分の机の一番見える所に貼った。新しい町でも、時々思い出して寂しくなる夜がある。そんな時、彼女は写真を見て思うのだ。あの空き地の友だちは、今は温かい家で眠っている。そして自分も、この新しい部屋で、ちゃんと眠ればいいのだと。 老夫婦は猫に「はな」と名付けた。春の花のように、家に明るさを連れてきたからだという。はなは今、窓辺の特等席で昼寝をしている。 手紙の返事は、届く時には届くのである。