長く入院している少女からの手紙だった。宛先は「夜の看護師さん」。 「いつも夜中に、そっと毛布を直してくれてありがとう。寝たふりをしていますが、気づいています。看護師さんの靴の音が聞こえると、安心します」 少女は手紙を書いて、点滴の台の下に隠していた。渡すのが恥ずかしかったのと、退院の時に渡そうと思っていたのと。けれど治療が長引き、手紙は局へ流れ着いた。 看護師は、夜勤の多い、若い女性だった。忙しい病棟で、時々、自分が何のために働いているのかわからなくなる。それでも夜回りを欠かさなかったのは、眠る子どもたちの顔を見ると、足が自然に病室へ向かうからだった。 その看護師が看護師になった理由は、彼女自身の子ども時代にあった。熱を出して入院した夜、不安で眠れない彼女の手を、夜勤の看護師が朝まで何度も握りに来てくれた。その手の温かさを、彼女はずっと覚えていた。今、自分が夜の病棟を歩くのは、あの手への恩返しでもあったのだ。 「この手紙は、彼女への返事なんです」星野局長は、配達を託しながら言った。「ずっと前に彼女が受け取った優しさへの、時を越えた返事です」 透は、病院の職員用ポストに手紙を届けた。翌日の夜勤明け、看護師はロッカールームで手紙を読んだ。目に涙を浮かべ、それから笑顔になったという。 看護師は手紙を、制服の胸ポケットに入れた。それから毎晩、そのポケットに手を当ててから夜回りを始めるようになったという。疲れた夜も、迷う夜も、手紙の重さが彼女の背中を押した。誰かの「ありがとう」は、働く人の一番静かな支えになる。 その晩の夜回りで、看護師はいつもより少し長く、少女の病室にいた。少女は寝たふりをしながら、心の中で言った。「届いたんだ」 二人の間の小さな秘密は、それからも続いた。少女が退院する日まで。 退院の日、少女は看護師に駆け寄って、初めて声に出して言ったそうだ。「ありがとうございました」。看護師は笑って、彼女の頭を撫でた。手紙で始まった気持ちが、声になって届いた朝だった。