第25話 小さな郵便屋さん

夜の郵便局 著者:ミオ

その夜、局の前の「出せなかった手紙入れ」に、子ども用の封筒が入っていた。中には、折り紙の手紙。 「よるのゆうびんやさんへ。いつもてがみをはこんでくれてありがとう。ぼくのいえにも、まえ、おばあちゃんからのてがみがとどきました。ぼくもおとなになったら、ゆうびんやさんになります」  書いたのは、近所に住む小学三年生の男の子だった。第4話のおばあちゃんの孫息子である。彼は夜更けに郵便局の明かりが灯るのを見ていて、「夜の郵便屋さん」がいるのだと、ずっと信じていた。 「局宛の手紙は、珍しいですね」透はほほ笑んだ。 「ええ。届ける側が、届けられる側になる日です」星野局長は、手紙を丁寧に帳面に挟んだ。  返事を書いたのは、局長だった。「手紙をありがとう。君のような人がいるから、私たちは毎晩、坂を上れます。大きくなったら、ぜひ局を訪ねてください。墨が案内します」  返事は男の子の家のポストに届けられた。彼はその手紙を宝箱に入れ、今でも時々取り出しては眺めているという。  男の子は毎晩、寝る前に窓から坂の上を見ていた。夜の十一時を過ぎると、小さな明かりが灯る。彼はそれを「郵便屋さんの灯り」と呼んでいた。おばあちゃんに話すと、おばあちゃんは笑って言ったそうだ。「あんたの手紙も、きっと届くよ」  届ける側への手紙は、局の歴史でも数えるほどしかない。その一通は、今も星野局長の帳面の、大事な頁に挟まれている。新しい局員が来るたびに、局長はその頁を開いて見せるのだという。  その夜、星野局長は男の子の手紙に、小さな記念の印を押した。「配達員候補」と書かれた、手作りの印だった。「十年後か、二十年後か。この局の明かりを覚えていてくれたら、それで十分です」  透は笑った。「墨の後任は、決まりましたね」   墨はその夜、手紙入れの脇で特別に長く喉を鳴らしていた。猫なりの、祝いの仕方だったのかもしれない。  その夜の局は、いつもより少し明るかった。白湯の湯気の中で、墨が気持ちよさそうに目を閉じていた。