第27話 生まれてくる君へ

夜の郵便局 著者:ミオ

宛先は「生まれてくる君へ」。書いたのは、もうすぐ曾祖母になる女性だった。 「はじめまして。私は、あなたのお母さんのおばあちゃんです。あなたが生まれる頃、私はもう、そちらにはいないかもしれません。でも心配しないで。私は十分に生きて、十分に幸せでした。あなたにも、きっと良いことがたくさんあります。困った時は、空を見上げてください。私も同じ空から、あなたを見ています」  女性は手紙を書き、娘——生まれてくる子の祖母——に託そうとしたが、「縁起でもない」と叱られる気がして、渡せなかった。手紙は彼女の裁縫箱に眠り、やがて夜の局に流れ着いた。 「この手紙は、届ける日が決まっています」星野局長は帳面を見た。「出産の前の晩です」  手紙を書いた日、女性は裁縫箱の前に長く座っていた。針仕事をしてきた手は節くれだち、ペンを握ると少し震えた。それでも字は丁寧だった。書き終えた彼女は、手紙を裁縫箱の底、色褪せたリボンの下にしまった。「いつか、必要な時に、届きますように」。祈るような気持ちだったと、後に彼女の娘が局への礼状に書いている。その礼状もまた、夜の局に流れ着いたものだった。  数か月後、その夜が来た。妊婦である孫娘は、不安で眠れずにいた。透は彼女の家のポストに、手紙をそっと届けた。  夜明け前、孫娘は目を覚まし、ポストの手紙を見つけた。曾祖母の字だった。読みながら、彼女はお腹を撫でて言った。「大丈夫だね。私たち、守られてるね」  その日の昼、元気な赤ちゃんが生まれた。手紙は産院のベッドの脇で、家族みんなに読まれたそうだ。 赤ちゃんの名前を決める時、家族は曾祖母の名前から一字をもらうことにした。手紙は額に入れられ、赤ちゃんの部屋の壁に掛けられた。読めるようになるのはずっと先のことだけれど、その子は生まれた日から、言葉に守られて育つのだった。   手紙はこれから、家族の集まる節目のたびに、静かに読み返されることになる。生まれた子が字を読めるようになる日を、家族みんなが楽しみにしていた。  出せなかった言葉は、命のリレーのバトンになった。